初心者から始めるハイパーカジュアルゲームの作り方

この記事は、Unity Advent Calendar 2020 の12月13日の記事です。

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ハイパーカジュアルゲームとは

ハイパーカジュアルゲームとは、普段ゲームをしないような超ライトユーザーをターゲットにしたモバイルアプリゲームの総称です。このタイプのゲームは、だれでも無料でダウンロードすることができて、ゲーム内で表示した広告を経由して、他のアプリへのインストールに誘導できると収益が発生します。

カジュアルゲームやソーシャルゲームと違い、世界中のだれでも理解できるようなわかりやすいゲームであることが、ハイパーカジュアルゲームの大きな特徴の一つです。 また、開発期間や運営期間がものすごく短いことも、ほかのゲームジャンルと大きく異なります。

ハイパーカジュアルゲームに全く触れていない読者のためにも、個人的におすすめしたいタイトルをいくつか紹介します。数多くあるハイカジゲームの中から、個人的に印象に残っているゲームを取り上げました。ハイカジ開発者なら一度は遊んだことのあるゲームでしょう。

このほかにも面白いゲームはたくさんありますが、とりあえずハイパーカジュアルがどんなものかを感じてもらうだけでも大丈夫ですので、ぜひプレイしてみてください。

絶対に抑えておいて欲しいハイパーカジュアルゲームの重要な要素は、

  • ゲームをしない超ライトユーザーがターゲット
  • だれにでもわかりやすいゲーム内容
  • 広告でユーザーを集める

です。ハイパーカジュアルをゲームジャンルと捉えるよりも、ビジネスモデルと捉えるほうが的確です。ハイパーカジュアルゲームはビジネスだ、ということを念頭に入れておきましょう。

ハイカジのビジネスモデル

ハイパーカジュアルゲームを作る上で忘れてはならないことがあります。それは、「広告で集客し、広告収入で利益を得る」ことです。

どんなに面白いゲームであっても、マーケティングなしにはアプリの海に埋もれてしまいます。「口コミで流行った!」は、ハイカジではありえません。そのため、ほぼすべてのハイパーカジュアルゲームは広告を出稿することで、ユーザーの獲得を狙います。

もちろん広告を出すにはお金が必要です。そこで、ハイパーカジュアルゲームをヒットさせる一つのキーポイントとして、いかに安いコストでユーザーを獲得するか、が重要視されています。安いコストでユーザーを獲得できるとどうなるか。それは、 広告出稿費 < 広告収入 という状況に持ち込みやすくなるということです。

お分かりいただけますでしょうか。ハイパーカジュアルゲームにおける収益構造はいたってシンプルです。逆にいうと、広告出稿費が安くできないかぎり収益にならない、ということでもあります。

ターゲットはiOSユーザー

一口にモバイルゲームといっても、iOSとアンドロイドに市場は分かれています。ハイパーカジュアルゲームは基本的にiOSユーザーをターゲットに開発していきます。これにはいくつか理由があって、

  • iOSユーザーのほうがLTVがよい(≒リターンが大きい)
  • Androidはトレンドを後追いすることが多い

などがあります。Androidをメインターゲットにして開発に入ることは、ほとんどありません。iOS向けアプリ開発はwindowsでも可能ですが、ストアへのアップロードにはxcodeが必要となるため、開発にはmacOSの入ったPCが必須となります。

制作の流れ

それでは実際の制作ワークフローを見ていきましょう。(ここに紹介するものは、ハイパーカジュアルゲームを業務として開発する私自身のものですが、スタジオによっては違うところもあるかもしれません。ゲーム開発に正解はないと思います。検証を重ねたうえで、「効率的だ」と確信を持ったものはどんどん取り入れていったほうがいいでしょう。

プロトタイプの作成

ハイパーカジュアルといってもゲーム制作に違いはありません。まずはゲームを作ります。

このとき一番大事なことは、「ハイパーカジュアルゲーム」を作ることです。

開発者によくあることなのですが、「ゲーム好きが好きそうなゲーム」を作ってしまうことがあります。ストーリー・実績要素・オンライン対戦・キャラメイク…..こういったものは、 ハイパーカジュアルゲームにおいてまったく必要ありません。絶対に忘れてはいけないことは、「ゲームをしない超ライトユーザー」でも楽しめるかどうか、です。

また、ゲームの題材として取り上げられてこなかったようなモチーフは、とてもハイパーカジュアルに向いていえます。たとえば、

このように、一見変わったモチーフに着目しているハイカジゲームも多数存在します。こうしたゲームは過去にだれも挑戦してこなかったため、広告ではとても斬新に映ります。こういうリーチの仕方が、いままでのゲーム開発とは大きく違うともいえるでしょう。

広告テスト

プロトタイプが完成したら、広告用の動画を撮影し、広告テストを実施します。ここでプロトタイプの開発を継続するか放棄するかを判断します。低コストで広告を打てないハイカジゲームに、未来はありません。

広告を流すプラットフォームは、Facebookを利用するのが主流です。広告を流す下準備として、

  • Facebookデベロッパーへの登録
  • プロトタイプへのFacebook SDK実装

が必要になります。

流入を計るSDKの実装

Facebook SDKのダウンロードはこちらです。注意点として、xcodeとの相性があり、うまくビルドできないバージョンが含まれています。最新のバージョンでうまくいかない場合は、バージョンを適度に下げることも検討してください。

また、SDKは起動時に初期化が必要です。忘れずに初期化するようにしましょう。詳しいFacebook SDKの実装方法は別記事にまとめましたので、こちらをご覧ください。

Facebook SDKの実装まとめ(準備中)

広告フォーマット

広告のフォーマットサイズは1024×1280です。テストプレイ画面をキャプチャし、動画編集ソフトで編集しましょう。動画素材は、Unity Recorderで撮影するのが一番楽だと思います。

動画の尺は30秒以内であれば問題ありません。30秒まるまる使い切る必要はなく、短い動画でも結果を出せることがあります。

あたりまえのことですが、アプリの魅力が十分に伝わるような広告である必要があります。広告制作における絶対的なマニュアルはありません。経験や検証を重ねて、広告の完成度を高めていくこともまた、ハイパーカジュアルゲーム開発において大事なことです。

プロトタイプ広告テストのクリア基準

プロトタイプのクリア基準はだいたいCPI$0.3といわれています。CPIとは、Cost per Installの略で、1インストールにかかったコストを指します。このCPIが$0.3下回らないと、アプリをスケールさせるのは厳しいと言われています。テストを走らせて、CPI$0.3を大きく上回るものであれば、容赦なくそのプロトタイプは切り捨てましょう。どんなに自信があっても、ユーザーにウケてない時点で負けです。

CPIがちょっと足りていないケースもあると思います。そういう場合は広告の見せ方が悪い可能性を考えてもいいでしょう。広告はちょっとした改善で、数値が大きく変わることがあります。気になる箇所や改善できそうな箇所をブラッシュアップして、再度テストにかけてみるのも方法の一つです。

CPIの他にも、参考になる指標があります。会社によっては重要視していないこともありますが、個人的に参考になるものをリストアップします。あわせて簡単な解説を付していおきますので、参考にしてください。

CPIインストールにかかったコスト。0.3以下を目指す!
CTRクリック率。3%は無いと厳しい
CPMインプレッション1000回あたりのコスト。CTRと少し相関する。安いほど広告表示回数が増える。10ドル前後が普通。
CPCクリックにかかったコスト。2倍弱がだいたいCPIと一致する傾向にある。

(プロトを放棄する場合)必ず反省すること!

テストの結果を受けて、プロトタイプを放棄する場合、必ずプロトタイプの反省をしましょう。悲惨な数字が続き、あまり気が乗らないこともあるかと思いますが、

  • なぜウケなかったのか。ex. アイデア?トレンド?ジャンル?…
  • クオリティをあげられた場所はなかったか
  • 結果が良かったプロトとの違いはどこか

などを検証します。そして、次のプロトタイプに生かせるような仮説を立ててから、次回作に臨みます。やみくもにプロトタイプを撃っても、数字は上がってきません。ハイパーカジュアルは改善と検証の連続です。一回一回のテスト結果に一喜一憂せずに、市場と向き合い続けることがなによりも重要です。

本制作

プロトタイプの広告テストをクリアしたら、本制作に移ります。ここで、いったんハイパーカジュアルゲームのビジネスモデルを思い出しましょう。

ハイカジは「広告出稿費<広告収入」で利益を生むビジネスです。プロトタイプでは、「この広告出稿費をいかに安くできるか」を検証したフェーズでした。

本制作では「広告収入をいかに大きくできるか」を検証するフェーズです。この点を念頭に、プロトタイプをブラッシュアップしてきます。どのようにゲームを作り込んでいくかは、ゲームによって千差万別です。

継続率テスト

本制作がある程度形になったら、再度テストにかけます。今回検証するのは、継続率です。いかにユーザーをアプリに引き留められるかで、インゲームの広告表示回数が変ってきます。

継続率の基準は、Day1で40%以上とされています。また、Day7は10%以上が望ましいです。

広告テストを突破できるプロトタイプが、十本に一本あるかないかです。ハイカジ開発を始めたばかりの方は、まだそれほど気にしなくてもいいでしょう。

本ローンチ

おめでとうございます!「CPIも十分安く、継続率も申し分ない」そんなアプリが完成したら、広告出稿のアクセルを踏む準備をします。本ローンチに合わせてリワード動線やインステ広告の表示タイミングなどを本格的に実装し、ステージの増量したり、コレクション要素を付け加えたりしましょう。

リワード動線はとても重要です。他社さんがどのようにリワード広告に誘導しているのかを参考にするといいでしょう。たとえば、「動画を見ると報酬を三倍にする」とか、「動画視聴で特殊スキンがゲットできる」とか、いろいろな手法があるので試してみるといいです。

この段階だと、ゲームアナリティクスを本格的に仕込むこともおすすめします。ゲームをより持続してプレイしてもらうための改善を怠ってはいけません。ステージ到達率や離脱箇所を数字として洗い出し、それらを基準にゲームを改良しつづけます。

(アクセルを踏んでからも広告の改善を怠ってはいけませんが、収益改善については本筋からそれるので、またの機会に….)

初心者へのアドバイス

ハイパーカジュアルゲームは個人での参入も可能です。現に、個人で制作したと思わえるアプリが ランキング上位に登場することもしばしば見かけます。とはいっても、最初は何をしていいのかわからないと思いますので、業界でよく聞くアドバイスを紹介します。

ランキングのチェック

ハイカジで戦うなら、「なにがウケてなにがウケない」のかを常にチェックし続ける姿勢が重要です。ランキング上位に入るアプリには必ず、ウケる理由が存在します。それらを知らずしてハイカジで戦うことは困難です。

ハイカジ初心者は、とりあえずランキング100位までのハイカジをプレイすることをおすすめします。ハイカジらしいステージ構成、ハイカジらしいUI、ハイカジらしいゲームデザイン、ハイカジらしい…..上げるときりがありません。「ハイカジらしい」をしっかりとつかんだうえで開発に臨みましょう。

ランキングは一週間もすれば顔ぶれが大きく変わります。日頃からランキングをチェックする習慣をつけるといいでしょう。また、日本のランキングはトレンドを少し後追いしてしまいます。必ずUSのAppStoreランキングからチェックします。

また、機内モードでプレイするのはやめましょう。機内モードでプレイすると広告を回避できることはよく知られていることですが過去作プレイは、ハイカジらしいゲームデザインを勉強することにくわえ、ハイカジ内での広告がどのようにみられるかを体験する重要な機会です。プレイ中に出てくる広告の中には、「お、このゲームおもしろそう!」と思うものがあるはずです。なぜ「おもしろそう」だと思ったのかを深く観察してみると、今後のプロトタイプ制作に生かすことができます。

他社広告のチェック

広告をチェックするには、Facebookの広告ライブラリから検索します。アプリ名でヒットするものもあれば、会社名で検索しログを辿る必要があったりもします。制作予定のジャンルで、過去にヒットしたアプリ広告をチェックしましょう。プレイするだけではなく、どうアプリを宣伝しているか、が重要です。

Facebook 広告ライブラリ

トレンドはある

ハイパーカジュアルゲームにもトレンドはあります。トレンドによってCPIが大きく変化することもあるので、ある程度敏感になったほうがいいでしょう。「以前刺さらなかったプロトタイプを再度テストしてみたところ、結果が良かった」なんてこともありますし、逆に「時間をおいて再テストしてみたら、CPIが大幅に悪化した」なんてこともあります。

2020年末だと、ランゲ―がまた流行っているかな、という印象です。少し前だと、ドロー系が上位を席巻していました。だいぶ前にはなりますが、2Dが流行っていた時期もありました。

レビューを重ねる

できるだけ多くの人 からレビューをもらった方がいいです。「よかれと思って作ったアニメが不評だった」「ルールが一目でわかってもらえなかった」など、第三者目線で初めてわかることも多いです。レビューで不評だった点は、ほぼ間違いなく視聴者にも不評と捉えられると思った方がいいでしょう。

ハイパーカジュアルゲーム開発はスピード勝負なので、もちろん工数との相談にはなりますが、レビューで出た改善点は、できるだけつぶしていくことをおすすめします。

アセットの活用

開発のスピードを上げていくうえで、アセットストアを有効に活用しましょう。実装が面倒なギミックアセットや絵作りをリッチにするモデルアセットは、簡単にプロトタイプの品質を上げてくれます。普段プロトタイプの開発をするなかで、自分がよく使うアセットを紹介すると、以下のようなアセットがおすすめです。

ストアにはさまざまなアセットが販売されています。短時間でクオリティを高く見せられるアセットは、スピード重視のハイカジ開発において最大の武器になります。時間がかかるものは手っ取り早くアセットに頼ってしまうことをおすすめします。

ABテストの活用

ABテストとは、AパターンとBパターンでどれだけ差があるのかを検証する効果測定です。例えば、

  • 赤い背景
  • 青い背景

といった、大きく構成の違う広告を同時に走らせて、どちらがより効果的なのかを検証します。

最初のうちは、このABテストを多用した方がいいでしょう。コストもその分かかりますが、のちのプロトタイプ制作に生きてきます。議論を重ねても答えが出ないような疑問が、さっさと市場に聞いた方が早いです。

最初の2秒が肝心

広告動画は最初の2秒で、その良し悪しが決まると思った方がいいでしょう。なぜなら、視聴者は広告をスキップすることができるためです。広告の種類にもよるのですが、多くの場合5秒経過したぐらいからスキップできるような仕様になっています。

つまり、動画の後半にインパクトのある場面があっても、見られない可能性があります

見せたいゲーム場面や伝えたいゲーム性は、惜しみなく広告の冒頭に配置しましょう。

Build-inとURP

Unityが開発を進めているモバイル向けURPですが、ハイカジではあまりメリットが無いかな、と個人的に考えています。従来のBuild-inで開発するメリットだと、

  • ストアのモデル系アセットはだいたいBuild-inでパッケージされている

もしURPで開発すると、インポートしたアセットのマテリアルを指定しなおす必要があり、結構な手間となります。またシェーダーに依存するアセットであれば、URP対応でないと動作する保証がありません。

URPは動作が軽いことが魅力ですが、そもそもプロトタイプ制作だとパフォーマンスを気にする必要がほとんどありません。また、プロトタイプ制作ではそれほど多くの時間をかけられないため、 レンダリングパイプラインをカスタマイズするような凝ったことはできません。唯一URPで開発するメリットと感じることは、

  • ShaderGraphが使える

これだけです。ShaderGraphは無料で使える公式のエディターアセットです。シェーダーを用いたメカニクス実装には大変役に立ちます。ただし、Built-in時代のサードパーティー製シェーダーエディターの方がドキュメントや機能が豊富です。無料で使えることは強みですが、それだけを理由にURPを導入するのはあまりおすすめしません。シェーダーエディターを導入するか、そもそもシェーダーに依存しないメカニクスにできないかを検証してみましょう。

主なデベロッパー

ランキング上位をプレイしていると、よく目にする会社があると思います。そうした会社の過去作品や広告は非常に参考になるので、ぜひ目を通しておきましょう。有名どころの会社をこちらの記事にまとめてみました。ぜひ参考にしてみてください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。すでにハイパーカジュアルゲームを開発している方にとっては、当たり前のことばかりだったと思います。これからハイカジに参入したい方は、こうした点を参考に開発を始めてみてみるといいでしょう。忘れてはならないことは「普段ゲームをしない超ライトユーザー」をターゲットにする、という点です。また、ゲームを作るというよりも広告を作るほうに力を入れたほうがいいことも、普通のゲーム開発とは違った点です。

ところで、ハイパーカジュアルゲームの開発について情報共有をするコミュニティを始めました。以前よりあったらいいなという声があがっていたので、思い切って立ち上げてみました。ハイカジに限らず、モバイルゲームの広告最適化についてやメディエーション(広告ネットワーク)についての情報共有も活発です。ぜひ、興味がおありでしたらぜひ下の記事から参加してもらえますと幸いです。

ハイパーカジュアルゲームの開発では、ノウハウがない内はなかなかいい結果が返ってこないことが普通です。そこでめげずに何本も広告を打ち、当たる確率の高いタイトルを引き当てましょう。この記事を読んで、ハイパーカジュアルゲームへ興味を持っていただけたのであれば幸いです。

参考資料

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